公益法人は主務官庁から監督を受ける立場にあります。
主務官庁からの監督の一環として、公益法人は主務官庁へ定期的に提出を要する書類があり、それら書類の総称が定期提出書類です。
「公益法人は管理運営が大変」という話をよく耳にしますが、そのように言われる原因の一つがこの定期提出書類なのではないでしょうか。
確かに作成には手間がかかる書類ですが、何度か作成・提出をするうちに法人ごとにある程度内容が定型化する場合が多いです。
また、決算処理の前提となる計算の基礎資料となる書類があるため、決算と同時並行で作成できる書類もあります。
そのため私見ではありますが、定期提出書類の作成は手間がかかるものの大いに効率化の余地がある書類と考えております。
この記事では、定期提出書類の内容や作成方法などを解説します。
内容を正しく理解して円滑な公益法人運営を行いましょう。
定期提出書類は何があるのか?
公益法人の定期提出書類とは以下の2つの書類です
- 事業計画書等に係る提出書
- 事業報告等に係る提出書
内容としては、書類名称のとおりで、公益法人の事業に関して「計画」と「結果報告」についての書類となります。
それぞれの書類の特徴を大まかにまとめます。
内容 | 提出期限 | 書類分量 | 作成に労力がかかる部分 | |
---|---|---|---|---|
事業計画書等に係る提出書 | 事業の計画と予算 | 毎事業年度開始日の前日 | 少 | 収支予算書 |
事業報告等に係る提出書 | 事業の報告と決算 | 毎事業年度経過後3カ月以内 | 多 | 公益認定基準に係る書類 |
詳細は個別で解説しますが、ここで注目して頂きたいのは提出期限の欄で、ポイントは2つです。
定期提出書類のポイント
- 事業年度ごとに毎年提出する必要がある。
- 提出期限がそれぞれ事業年度の「開始日の前日(つまり期が始まる前)」と「経過後3ヶ月以内(つまり決算日の翌日から3ヶ月以内)」である。
ポイントそれぞれについて解説します。
事業年度ごとに毎年提出する必要がある
「事業計画書等に係る提出書」と「事業報告等に係る提出書」は毎年提出が必要です。
そのため、定期提出書類と呼ばれています。
公益法人において、会計上では「予算」と「決算」がセット、事業上では「事業計画」と「事業報告」がセットになって毎年作成されます。
これらのセットそれぞれに対応して、毎年「事業計画書等に係る提出書」と「事業報告等に係る提出書」を作成して提出します。
提出期限がそれぞれ事業年度の「開始日の前日」と「経過後3ヶ月以内」である
「開始日の前日」とは、期首日の前日、つまり会計年度が始まる前。
「経過後3ヶ月以内」とは、決算日の翌日から3ヶ月以内。
この期限を3月31日を決算日とする法人に当てはめると
「事業計画書等に係る提出書」は3月31日が期限で、「事業報告等に係る提出書」は6月30日が期限、となります。
よって、公益法人の定期提出書類に関しては、毎年3月から6月の間は慌ただしい時期に。
私の経験からも公益法人の管理業務に関係する繁忙期は、次年度の予算編成が始まる1月あたりから始まり、決算確定から全ての書類提出が終わる6月下旬までの長期間になります。
気が抜けない期間が約6ヵ月あるというのも公益法人の特徴で、この点からも「公益法人は管理運営が大変」と言われます。
それでは、それぞれの書類について詳細を確認しましょう。
事業計画書等に係る提出書とは?
事業計画書等に係る提出書とは、事業年度が始まる前に主務官庁へ提出する書類で、書類提出後に始まる1事業年度について書かれたものです。
書類の主な内容としては、法人が計画している事業の詳細と予算など。
事業計画書等に係る提出書の中身を書類別に詳しく解説します。
事業計画書等に係る提出書の中身
事業計画書等に係る提出書の中身は以下の4つです。
提出書の中身
- 事業計画書
- 収支予算書
- 資金調達及び設備投資の見込みを記載した書類
- 1から3までに掲げる書類について理事会(社員総会又は評議員会の承認を受けた場合にあっては、当該社員総会又は評議員会)の承認を受けたことを証する書類
それぞれ書類の名称から内容を察することができますね。
それでは4つの書類について細かく解説します。
事業計画書
事業計画書とは一言で表すと
「これから始まる事業年度において、どのような事業を行う予定か」
を記載した書類です。
そこで事業計画書というものが具体的にどのようなものであるかですが、公益法人の事業計画書は、株式会社で作成するような資金調達や予実管理のために作成する事業計画書とは異なるのでご注意下さい。
以下のポイントに絞って解説します。
事業計画書のポイント
- 法人任意のフォーマットで作成する
- 具体的な金額や数字などは記載していなくても問題ない
- 基本的には公益認定申請時に認定を受けた事業を記載する
ではポイントをそれぞれ解説していきます。
法人任意のフォーマットで作成する
事業計画書について、法令で定められた形式はありません。
よって、公益法人それぞれ任意のフォーマットで作成します。
ただ、任意の形式とはいえ、その他の書類との整合性や作成する際の手間などを考えるとおすすめの形式がありますので、私のおすすめする形式について解説します。
おすすめの事業計画書形式は、行う事業を箇条書きで列挙する形式です。その際、公益認定申請時に実施する予定の事業として記載してある章立てに合わせることをおすすめします。
なぜならば、事業年度終了後に提出する「事業報告等に係る提出書」作成において公益認定時に提出した書類から流用する部分があり、当該部分と事業計画書の中身や順番が統一されていると内容が把握しやすくなるためです。
この記事内の「事業報告等に係る提出書」でも記載しますが、そうすることによって書類全体を統一して管理・作成することができ、書類作成が効率化され、記載ミスも減らすことができます。
さらに、それら章立て列挙された事業の中で、予算が充てられていたり実際にイベントとして行う行事ごとに細分化して記載すると解りやすいです。
事業計画書は、総会や理事会での説明において混乱を招くほど詳細に書かれていたり、事業計画書を見ても内容が解らないほど大雑把では問題があります。
公益法人の事業計画は、どこまで細かく書くか法人ごとに工夫する余地がある書類。
インターネットで検索すると様々な公益法人が公開しているので、実物を見てみるのもおすすめです。
あくまでサンプルですが、公益法人の事業計画書の記載例をWord形式で作成しました。
こちらのwordファイルは、そのままひな形としてご利用頂けるものではありますが、法人ごとに適した記載方法があると考えられますのでご参考程度でご利用ください。
具体的な金額や数字などは記載していなくても問題ない
公益法人の定期提出書類として作成する事業計画書においては、金額や数値を記載する必要はありません。
理由としては、事業計画の中でも金額面については収支予算書の情報で補完されているからです。
株式会社で資金調達や予実管理の際に作成する事業計画書は、各年度の損益計算書の金額などを記載するのですが、それらとは全く別のものとご理解ください。
あくまで公益法人の事業計画書は任意のフォーマットです。
どうしても金額や数値を入れて事業計画書を作成する必要がある場合は、各事業の部分に予算額や数値(例えば○○講習〇回)を記載するなど、事務負担の許容できる範囲内で各法人の運用しやすい形式がよいでしょう。
基本的には公益認定申請時に認定を受けた事業を記載する
事業計画書に記載される事業内容は、基本的に公益認定申請時に認定を受けた事業となります。
そのため、一般的に事業計画書の内容は公益認定を受けた後において大きく変更する事例は少ないです。
よって公益法人の事業計画作成実務現場においては、前年度の内容を踏襲して作成していくのが実情ではないでしょうか。
注意が必要なのは、公益認定申請時に認定を受けた事業以外の事業を行う計画がある場合、もしくは事業内容の変更がある場合です。
これらの変更認定申請、変更届出については定期提出書類とは別の書類であるため、別の記事で解説させて頂きます。
収支予算書
収支予算書とは一言で表すと
「これから始まる事業年度において、何にいくら費用が発生するか」
を記載した書類です。
この収支予算書は、事業計画書と表裏一体の関係にあります。
事業計画書の解説において、公益法人は主務官庁へ提出した事業計画に基づいて活動する法人である旨を解説しました。
会計面においては、公益法人は事業計画に対応した予算(つまり収支予算書)に基づいて活動する法人と言えます。
それでは収支予算書についてポイントを絞って解説します。
収支予算書画書のポイント
- ある程度定められたフォーマットで作成する
- 資金収支ベースではなく損益ベース
- 事業計画書上で計画した各事業からの積み上げ数値を基にする
- 資金繰りを確認して実行可能な予算とする
- 決算時に公益法人の財務三基準を満たせる予算とする
それではポイントをそれぞれ解説していきます。
ある程度定められたフォーマットで作成する
事業計画書の方は任意のフォーマットでしたが、収支予算書はある程度定められたフォーマットがあります。
「ある程度」という表現をしたのは、法令で様式として定められてはいないものの、法令上の文言で記載が必要な情報があるからです。
また収支予算書を「公益認定時に主務官庁へ提出する収支予算書の様式」あるいは「決算時に作成する書類と対応する様式」に合わせて作成しようとすると、収支予算書の様式は統一されます。
収支予算書の根拠条文について、具体的には「収支予算書の取り扱いについて」をご参照下さい。
記載例として、東京都の公益認定時に添付書類として使用可能で、各主務官庁へ収支予算書として提出することも可能な収支予算書と収支予算内訳表のサンプル・雛形をExcel形式で作成しましたので、そちらをご参照下さい。
こちらのExcelファイルは、そのままひな形としてご利用頂けるものではありますが、法人ごとに適した記載方法があると考えられますのでご参考程度でご利用ください。
余談ですが、エクセルで作成する際は算式のミス、行・列の非表示となっている部分に数字が入っていることで発生する不整合など、思わぬ間違いが起こり得ますので十分ご注意下さい。
資金収支ベースではなく損益ベース
一言でいうと
「収支予算書に計上する収益・費用は、資金の出入りがあるものだけではなく未収・未払は勿論、減価償却費や引当金繰入など実際にお金が動いていなくても決算時に費用計上が必要なものについては計上する」
ということです。
結果として収支予算書とは、年度が締まった後に作成される決算書の正味財産増減計算書と同じ基準で収益費用を計上し損益計算された予算書といえます。
よくある誤解として「入出金があるもののみを収支予算書に計上する」という誤解があります。
おそらく収支予算書の「収支」という言葉が、資金の出入りを指すことがあるため、そのような誤解が生じているのではないかと思われます。
収支予算書では、資金の動きとは関係ない収益費用も予算として計上し、会計上の損益計算に合わせた計算をする必要があるのでご注意下さい。
事業計画書上で計画した各事業からの積み上げ数値を基にする
積み上げ数値を基にするとは、大雑把な数値ではなく具体性のある数値を集計するということです。
例えば「AA事業の消耗品費で○○円、通信費で○○円」 「BB事業の消耗品費で××円、通信費で××円」といったように、事業計画書で計画した事業ごとに、実際発生が見込まれるものを集計します。
なぜそのように収支予算書を作成する必要がるかというと、収支予算書はある程度の精度が求められるからです。
そして精度が求められる理由は以下のようなものがあります。
- 年度が終了し決算の際に、予算と実績の比較(いわゆる予実管理)がある
- 予算を逸脱すると資金繰りや、維持すべき財産の金額を管理することができなくなる
つまり収支予算書は、年度が始まる前に作成して終わりではなく、その後においても利用される計算書類なのです。
公益法人で実務上散見される状況として、決算前に焦って予算と実際の予算執行状況を確認し「そもそも予算がどれだけ余っているか把握できない」「余った予算を使う必要があるかも」「もう予算を使い切ってしまって何もできないかも」と現場が混乱することがあります。
そのように混乱することがないよう、事業や人ごとに予算の使用権限をあらかじめ明確に管理し、年度内で定期的に予算執行状況を把握するのが理想です。
効率的に予算執行を進める運用方法は、ITツールの利用は勿論のこと公益法人ごとに実態に合わせた設計をする必要があるのではないでしょうか。
資金繰りを確認して実行可能な予算とする
収支予算書は年間での損益見込みを計算した書類です。
実際の手元資金、入出金のタイミングなどを考慮して、事業上実行可能な予算となるように作成しましょう。
例えば、予算通りに入出金があったとして期末の資金を見積もると、資金がマイナス残高になってしまうような予算では、借入を計画する必要があり、借入に対する法人としてのアクション(法人内の意思決定決議や銀行とのやりとりなど)が必要となります。
収支予算書の作成は、単純に損益計算の見込みで終わらないようご注意下さい。
決算時に公益法人の財務三基準を満たせる予算とする
公益法人とは?の記事で簡単に解説しましたが、公益法人の決算書は財務三基準を満たす必要があります。
よって
「収支予算書の予算どおりに入出金があったのに、いざ決算時に決算書を作成したら財務三基準を満たせていないことが判明した」
という状況があった場合は、予算作成の時点から方向が間違っていたということになります。
収支予算書は年度が始まる前に、事業計画から年間損益を見積もる計算書類ですが、年間損益計算にとどまることなく財務三基準を満たせているか否かも勘案して作成しましょう。
実際の実務現場で、財務三基準がシビアな状況にある場合はエクセルで将来数年間の財務モデリングを作成しシミュレーションを行います。
具体的には将来の正味財産増減計算書、貸借対照表を作成し、そこから財務三基準を満たせる直近の収支予算書を作成していきます。
そこで、将来シミュレーションに役立つExcelファイルを作成しました。
将来財務三基準を満たせるかシビアな状況にあり、エクセルを活用して制度の高い収支予算書の作成が必要な公益法人の方がいらっしゃれば是非ご活用下さい。
資金調達及び設備投資の見込みを記載した書類
「資金調達及び設備投資の見込みを記載した書類」という長い名称がついた書類ですが、1枚の書類で内容はシンプルです。
書類名称からおおよその見当がつくかと思われますが、ポイントを絞って解説します
書類のポイント
- 書類に記載すべき内容
- 記載するか否かの判断となる重要性について
それでは2つのポイントについてそれぞれ解説します。
書類に記載すべき内容
書類に記載すべき内容は、借入れと設備投資の見込みそれぞれについて以下の事項です。
- 予定の有無
- 関連する法人の事業
- 金額
- 内容(借入先、設備、使途)
借入れや設備投資は、事業計画書・収支予算書いずれにも反映されないのですが、法人運営にとって重要な計画であるため作成と提出が求められます。
これから始まる事業年度の計画を事業計画書・収支予算書とは別の切り口である、資金調達と設備投資から記載する書類といえるでしょう。
実際の「資金調達及び設備投資の見込みを記載した書類」をみて頂ければ、その書類のシンプルさが把握できるかと思います。
書類作成そのものにかかる時間としては、書類がシンプルなので時間がかかりません。
しかし、資金調達と設備投資は性質上、法人内での意見調整・意思決定に非常に時間がかかることが見込まれます。
よって、書類作成以前の部分で時間がかかる可能性が高く、事業計画書・収支予算書の作成と合わせて遅くとも年明けには法人内で検討することをおすすめします。
書類の内容重要性が高いものを記載
「資金調達及び設備投資の見込みを記載した書類」 に全ての資金調達と設備投資を記載する必要はありません。
記載する必要があるのは法人において「重要性が高い」と判断されたものです。
そこで悩ましいのが「重要性が高い」というのは何を基準にして判断すべきかですが、結論からいうと明確な定めは法令上ありません。
明確な法令の定めが無い中で一般的な取り扱いとしては、法人の規程や規則において理事会決議事項となっている資金調達と設備投資を「重要性が高い」と判断することが多いです。
その理由ですが、一般法人法の第90条で、理事会は「重要な財産の処分及び譲受け」と「多額の借財」を理事に委任することができず、理事会決議事項としているからです(財団は第197条準用)。
ところが、この条文の中にある 「重要な財産の処分及び譲受け」と「多額の借財」 に明確な基準が定められていないことから、そもそもの法人の規程や規則において、理事会決議が必要となる基準をどのように定めるべきかという問題に戻ります。
この点については、会社法に関する判例(株式会社における取締役会決議を要するか否か)をよりどころとします。
当該判例上は「重要な」「多額の」にあたるのかについては、一律の数字上の基準があるわけではなく、裁判所は、その額、会社の規模、事業の状況、会社の総資産に占める割合、取引の目的、会社における従来の取扱い等の事情を総合的に見て、個別具体的に判断しています。
よって、公益法人においても、規程や規則上で理事会決議を要し、定期提出書類の「資金調達及び設備投資の見込みを記載した書類」に記載しが必要な「資金調達」と「設備投資」は、 その額、法人の規模、取引の目的などを総合的に勘案して定めるのが適切と考えられます。
1から3までに掲げる書類について理事会(社員総会又は評議員会の承認を受けた場合にあっては、当該社員総会又は評議員会)の承認を受けたことを証する書類
当該書類は単純明快、議事録です。
法人によって事業計画書・収支予算書の決議機関は様々で、社員総会・理事会・評議員会いずれか任意の機関です。
個人的には、事業計画と予算の決定は社員総会ではなく理事会をおすすめしています。
特に公益社団法人である場合は、社員総会の開催に事務的・金銭的負担があるためです。
とはいえ、従来より社員総会で予算決定を行っていた社団法人においては、理事会決議とすることに抵抗感があるかと思います。
そこで、そのような公益社団法人では、理事会で 事業計画書と収支予算書を決議決定したうえで「社員総会」ではなく、従来社員総会を開催していた時期と同時期に「報告会」として集まる機会を設け、社員に対して事業計画書と収支予算書の報告を行ってい事例があります。
事業計画書等に係る提出書の作成に必要な時間はどれくらい?
事業計画書等に係る提出書の中身4つの書類、それぞれの解説から予想がつくかと思われますが、書類のボリュームとしては多くありません。
実際に書類一式をプリントアウトしても通常であればA4用紙で10枚程度です。
では時間にするとどうでしょうか。
- 書類作成だけに限れば5~6時間程度(条件あり)
- 書類ができても法人内での調整や意思決定決議、書類修正に数日かかる場合あり
書類作成だけに限れば5~6時間程度(条件あり)
ただし、そのように早く作成できるのは「公益認定時に作成した書類」「過年度の事業計画書等に係る提出書」それぞれを効率的に作成して新年度ごとに流用する運用が確立されていることが前提条件です。
仮にゼロから作成する場合(つまり公益認定時に作成する業務と同じことをする場合)は数日かかることが見込みまれます。
なぜならば、事業計画書のたたき台作成と、あらゆる条件を満たす収支予算書の作成には相当な時間を要するためです。
書類ができても法人内での調整や意思決定決議、書類修正に数日かかる場合あり
実際は事業の計画、予算の作成、それぞれ理事会や理事会に準じた会議で数回検討され決議されるのが通常です。
また、その数回の会議で書類の中身について修正が行われます。
書類作成につき丸1日要しないとはいえ、それはあくまで書類ができあがっているだけで、法人内の正式な書類が出来上がるまでに日数が必要です。
勿論、会議で話し合いがスムーズに進まなかったり、大がかりな書類修正が必要な場合は、より多くの日数を要します。
よって、私の関与する事例では余裕をもって、年明け早々に事業計画・収支予算書のたたき台を作成し、1~2月中において数回の会議を経て3月上旬の理事会で事業計画・収支予算書が決議される流れです。
年度によってはイレギュラーな計画・予算もありえますので、時間的余裕をもって作成されることをおすすめします。
事業報告等に係る提出書とは?
事業報告等に係る提出書とは、事業年度が終わった後に主務官庁へ提出する書類で、終了した1事業年度について書かれたものです。
書類の主な内容としては、法人が行った事業と決算の詳細、決算内容が公益法人の財務三基準を満たせているかなど。
年度が始まる前に「事業計画書等に係る提出書」を提出し、年度が終わった後に「事業報告等に係る提出書」を提出することから、対応関係を意識しながら書類の内容をおさえましょう。
それでは、事業報告等に係る提出書の中身を書類別に詳しく解説します。
事業報告等に係る提出書の中身
事業報告等に係る提出書の中身は以下の5つです。
提出書の中身
- 運営組織及び事業活動の状況の概要及びこれらに関する数値のうち重要なものを記載した書類(別紙1)
- 法人の基本情報及び組織について(別紙2)
- 法人の事業について(別紙3)
- 法人の財務に関する公益認定の基準に係る書類について(別紙4)
- その他添付書類について(別紙5)
それぞれ書類の名称から内容を察することができますが、その中でも4つ目の「法人の財務に関する公益認定の基準に係る書類について」が作成するうえで特に手間がかかる書類です。
また、各書類はつながりがある書類であるため、作成する際には書類間の関連性もおさえながら理解を深めていくと良いでしょう。
それでは5つの書類について細かく解説します。
運営組織及び事業活動の状況の概要及びこれらに関する数値のうち重要なものを記載した書類(別紙1)
書類はA4用紙2枚でシンプルな内容です。
具体的には下記の2つの事項を記載します。
- 法人の基本情報について
- 事業活動等について
法人の基本情報については、法人の名称や設立登記日などを記載します。
事業活動等については、今回提出する事業報告等に係る提出書類の中でも主要な指標となる数値を記載します。
つまり、この「運営組織及び事業活動の状況の概要及びこれらに関する数値のうち重要なものを記載した書類(別紙1)」とは、提出書類のまとめ書類。
A4の紙2枚ですが、この書類を見れば提出書類の概要が把握できます。
法人の基本情報及び組織について(別紙2)
書類はA4用紙3~4枚で通常であれば毎年ほぼ同じ内容です。
具体的には下記の2つの事項を記載します。
- 基本情報
- 組織
基本情報については、法人の住所や代表者氏名、提出書類の担当者氏名などを記載します。
組織については、公益社団法人・公益財団法人それぞれで書く内容は異なりますが、組織を構成する人数や社員総会・理事会・評議員会の開催状況を記載します。
ポイント
組織運営に大きな変更がなければ毎年ほぼ同一の記載内容になります。
過去の書類から流用できる部分、毎年更新する必要がある部分を把握して効率的に作成しましょう。
ここまで解説しました2つの書類
「運営組織及び事業活動の状況の概要及びこれらに関する数値のうち重要なものを記載した書類(別紙1)」
「法人の基本情報及び組織について(別紙2)」
は、法人の基本情報や組織運営の状況、各書類の主要な数値を転記することで、法人の概要を記載する書類でした。
それに対して、以下で解説する書類は1年間の法人活動詳細を記載する内容になります。
作成する際は意識を切り替えて取りかかると良いでしょう。
法人の事業について(別紙3)
法人が1事業年度に実際行った事業内容を記載し主務官庁へ報告する書類です。
事業内容は公益目的事業・収益事業等に分けて記載します。
こちらの書類の内容は、ほぼ全て文章で事業内容を細かく説明する記載になります。法人によっては10ページを超える分量で文章量も相当なものになります。
しかしご安心下さい。
以下のポイント2点を押さえて内容を理解して作成すれば、徐々に手間が減っていき作成ミスも無くなります。
ポイント
- 公益認定時に作成した事業内容の説明を基礎として作成する
- 事業計画書の記載内容と比較・連携させながら作成する
ポイントとしては2点で少ないですが、全体業務を効率化・明確化するには非常に重要な部分です。
是非ご理解いただき、全体業務を効率化させて頂ければと思います。
それでは各ポイントについて解説します。
公益認定時に作成した事業内容の説明を基礎として作成する
この記事の事業計画書のポイントの中でも解説しましたが、「法人の事業について(別紙3)」は、公益認定申請時に作成した事業の内容説明をそのまま流用して作成することができます。
そうすることによって、各年度において事業報告に係る提出書類を作成する都度、何ページも文章を作成する手間が無くなります。
よって、以下の注意点に注意して公益認定申請時に作成した事業内容の説明を更新し、効率的に当該事業年度の事業報告に作りましょう。
一見文章量が多くて大変な書類のように感じますが、上記の2点を注意しながら、公益認定申請時に作成した事業の内容説明(もしくは前年度に作成し提出した同書類)を更新することで作成負担を大幅に減らせるはずです。
事業計画書の記載内容と比較・連携させながら作成する
事業計画書には、当該年度に行う計画の事業内容が記載されています。
よって「法人の事業について(別紙3)」を作成するにあたり、事業計画の中身を確認し、計画数値が入っていたら実績数値に置き換えるなどして作成を進めるとよいでしょう。
なぜならば、今、詳細を掘り下げている「法人の事業について(別紙3)」は、公益認定申請時に作成した事業の内容説明を流用して作成することができると解説しました。
また、それとは別で事業計画書の解説の中で、事業計画書を作成する際は公益認定申請時に作成した事業の内容説明に章立てや記載順序を合わせることをおすすめしておりました。
すると「法人の事業について(別紙3)」「公益認定申請時に作成した事業の内容説明」「事業計画書」の3つの書類は基本的に同じ内容となるはずで、同じ内容とならない部分は「事業計画書」の計画として数値を入れた部分のみになるからです。
ただし、事業計画をたてたものの、実際は行わなかった事業があったら「法人の事業について(別紙3)」の記載内容から除外する必要がありますのでご注意下さい。
法人の財務に関する公益認定の基準に係る書類について(別紙4)
公益法人が満たすべき財務三基準を満たせているか否かを判定する書類です。
「法人の財務に関する公益認定の基準に係る書類について(別紙4)」の構成は、アルファベット順で「別表A」からはじまり「別表H」までの7種類(別表Gは無し)の書類です。
別表の各数値は決算書の数値、もしくは決算書作成過程の数値ですが、決算が終わってからこれらの別表を作成して財務三基準が満たせているか判定するようでは法人の決算対応が危ないと言えるでしょう。
よって、「当該別表A~Hの書類作成をスムーズに進めるため」のみならず「決算が無事財務三基準を満たす着地ができているか決算時に把握できるようにする」という意味でも、効率化が必要な計算です。
実際に、この別表A~Hは効率化が可能な書類です。
なぜならば、公益認定申請時に同じ内容を計算しており、さらに毎年同じ計算を行っているためです。
また、会計上の決算処理の中で行う計算を表にすると、同じ書類ができあがる表もあります。
決算が確定する前に別表A~Hの内容が計算し終わっている状況が理想なので、効率化を進めてスムーズな決算と書類作成ができるよう準備を整えましょう。
それでは別表A~Hそれぞれの内容とポイントを表にまとめますので、まとめてご確認下さい。
書類名称 | 内容 | 注意点 | 効率化方法 |
---|---|---|---|
別表A | 収支相償の算定 | 特定資産の取り扱い | ・決算書作成過程で予め正味財産増減計算書内訳表から収支相償チェックを行う ・事業番号をなるべくまとめて細かく分類しない(公益認定申請時からそうするべき) |
別表B | 公益目的事業比率の算定 | 特定資産の取り扱い | ・決算書作成過程で予め正味財産増減計算書内訳表から公益目的事業比率チェックを行う |
別表C | 遊休財産の保有制限の判定 | 将来まで見越して計画 | ・ 決算書作成過程で予め貸借対照表・正味財産増減計算書から遊休財産の保有制限チェックを行う ・将来を見越して特定資産の計画をたてて数値管理する |
別表D | 他の団体の意思決定に関与することができる財産保有の有無 | 記載漏れ | ・財産取得時に当該書類に該当するか否かのチェックが入る業務フローを作成する ・ 通常であれば毎年同じ内容であるため、過年度の書類を流用したうえで変更点の有無をチェックする |
別表E | 情報開示の適正性 | ー | 通常であれば毎年同じ内容であるため、過年度の書類を流用したうえで変更点の有無をチェックする |
別表F | 各事業に関連する費用額の配賦計算表 | Excel上のミス | ・決算処理で按分処理、配賦処理をする科目があった場合、当該別表Fを作成してから伝票を作成する ・決算処理で按分処理、配賦処理を行う科目は通常毎年同じであるため過年度の科目と算式を流用し数値のみ変更して作成する |
別表H | 当該事業年度末日における公益目的取得財産残額 | 過年度書類からの転記ミス | ・決算書から転記する数値は通常であれば例年同じであるため、決算書のどこから集計するか手順を定型化して作成する |
その他添付書類について(別紙5)
法人によっては提出書類を全てプリントアウトしてみると、この「その他添付書類について(別紙5)」が一番分量が多かったという事例もあります。
とはいえ、事業報告等に係る提出書類を作成するために新規で作成する書類はありません。決算が無事締まって、無事に社員総会・評議員会・理事会が開催されていれば存在するはずの書類です。
紙媒体のものもありますが、スキャンするなどして電子データで法人内に別途保管する体制を整えれば、それらを用いて添付書類として送信するだけで済みます。
添付書類をスムーズにそろえることができるよう、法人内の体制を整えることをおすすめします。
具体的には以下の書類が添付書類となります。
No. | 添付書類 |
---|---|
1 | 財産目録 |
2 | 役員等名簿(閲覧用と保管用の両方添付) |
3 | 理事、監事及び評議員に対する報酬等の支給の基準を記載した書類 |
4 | 社員名簿(公益法人社団のみ、閲覧用と保管用の両方添付) |
5 | 貸借対照表及びその附属明細書 |
6 | 損益計算書及びその附属明細書 |
7 | 事業報告及びその附属明細書 |
8 | 監査報告(会計監査人を設置している場合、会計監査報告も添付) |
9 | キャッシュ・フロー計算書(作成義務がなく作成していない法人は添付不要) |
10 | 滞納処分に係る国税及び地方税の納税証明書 |
11 | 許認可等を証する書類(許認可等が不必要な法人は添付不要) |
12 | 事業・組織体系図 |
13 | 社員の資格の得喪に関する細則 |
14 | 会員の位置づけ及び会費に関する細則 |
15 | 寄附の使途の特定の内容が分かる書類 |
事業報告等に係る提出書の作成に必要な時間はどれくらい?
事業報告等に係る提出書の中身5つの書類、それぞれの解説から予想がつくかと思われますが、書類のボリュームとしてはかなり多いです。
実際に書類一式をプリントアウトすると通常であればA4用紙で50枚は超えます。
では時間にするとどうでしょうか。
- 書類作成だけに限れば10~20時間程度(条件あり)
- 添付書類が多いため電子媒体で書類を管理・保管すると早い
書類作成だけに限れば10~20時間程度(条件あり)
ただし、そのように早く作成できるのは「公益認定時に作成した書類」「事業計画書等に係る提出書」「過年度の事業報告等に係る提出書」「決算書類」「決算において作成した按分計算の資料」など、それぞれを効率的に作成して新年度ごとに流用する運用が確立されていることが前提条件です。
仮にゼロから作成する場合、上記のような条件が整っていない場合は数日かかることが見込みまれます。
提出方法
提出方法は公益法人informationというwebページにて必要書類をアップロードし送信を行います。
公益認定申請時と同じく、提出書類の中でもブラウザ上で入力して完了するものと、Excelに入力してアップロードする必要があるものがあります。
記載ミスの中でも、下記のようにテクニカルな要素が原因となっているミスが散見されます。
これらのミスはちょっとした注意で防げるので十分ご注意ください。
おすすめのチェック方法は単純ですが、一度電卓を使って計算してみることです。
もし書類提出後に記載ミスがある場合、書類に不足がある場合は主務官庁からメール連絡があります。
その連絡に従い速やかに該当部分の修正を行い、再度公益法人informationにて送信を行うようにしましょう。