公益法人設立

公益法人の設立方法と公益認定について

「公益法人の設立はどこのように行えば良いのでしょうか?」という質問を受けることがありますが、公益社団法人と公益財団法人(以下、公益法人)は、法人設立時から公益法人となることはできません。

それではどのように公益法人をたちあげるかというと、全体の流れとしては以下のようになります。

  1. 一般社団法人・一般財団法人(以下、一般法人)の設立登記を行う
  2. 一般法人において公益認定申請書を作成して主務官庁へ提出
  3. 一般法人が提出した公益認定申請書の内容が、主務官庁において公益法人として問題ないことが認められ、主務官庁から一般法人へ対して公益法人として認定する内容の確認書が発行される
  4. 一般法人が、公益法人として認められた確認書をもって、法務局で一般法人から公益法人へ移行登記を行う

1と4は登記手続きとなりますので論点はなく、手続き上の話となり必要書類をそろえて事務的に登記申請を行うのみとなります。

その一方で2と3については、かなりの時間と労力を要する手続といえるでしょう。

よって、公益認定を受けるにあたり、公認会計士や税理士等がコンサルティング業務の提供を行うことがありますが、そのコンサルティング内容はこの2と3の業務についてです。

この記事では1~4の流れそれぞれに合わせて、公益法人ができるまでを以下の内容で解説していきます。

一般社団法人・一般財団法人の設立登記

一般法人は法律上「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」を根拠としている法人です。

分類としては一般社団法人と一般財団法人があり、それぞれ組織体制が異なるため分けて解説します。

また、単に一般法人を設立するのではなく、公益法人への移行を前提としての設立を趣旨としていますので、その点についても解説します。

一般社団法人の場合

一般社団法人とは、目的をもった「人の集まり」に対して、法人格(権利・義務の主体となる能力)を与えられたものです。

具体的な例としては同業者団体が挙げられます。共通の目的を持った人が集まって、その集まりで何かをしようという組織です。

ここで法律上の用語で注意点があります。

一般社団法人は「人の集まり」に対して法人格を与えられていると書きましたが、この「人の集まり」おいて指す「人」のことを、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律上「社員」と呼びます。

世の中で会社に勤め雇用されている人を社員と呼びますが、同じ社員という名称でも意味が全く違います。一般社団法人の社員は、法人と雇用の関係ではありませんのでご注意下さい。

後述しますが、一般社団法人の社員とは法人の最高意思決定機関である社員総会を構成する者で、一般的には社員総会の議決権を有する者です。

一般社団法人の設立登記には何が必要?

一般社団法人の設立には2人以上の社員が集まれば設立することができます。

そこからの手続きは司法書士に依頼するのが通常ですが、定款の原案を作成し、その定款原案を公証役場にて認証を受け、法務局に設立登記を申請すれば設立完了です。

設立費用としては、司法書士に依頼しない場合、一般的には定款認証費、定款の印紙代、登記申請の登録免許税で15万円程度かかります。

司法書士に依頼する場合は、電子定款を利用するため定款の印紙代は不要ですが司法書士報酬が発生し、差引で18~20万程度かかることが主流のようです。

公益認定を見据えた一般社団法人の設立登記とは?

結論としては、一般社団法人の設立時から公益認定を受けて公益社団法人となることを前提としていた場合、設立当初から理事数を3名以上とし、理事会と監事も設定しておくことをおすすめします。

理由としては下記の表をご覧ください。一般社団法人と公益社団法人では法律上求められる機関設計に違いがあります。

言い換えれば、一般社団法人から公益認定を受けて公益社団法人になるためには、表の中の公益社団法人の要件を満たしている必要があります。

そのため、一般社団法人を設立した当初から公益認定をクリアできる機関設計にしておくことで、スムーズに公益認定へ進むことができるためです。

一般社団法人公益社団法人
社員数2名以上必要2名以上必要
社員総会必要必要
理事数1名以上必要3名以上必要
理事会任意必要
監事任意(理事会設置した場合は必要)1名以上必要
会計監査人任意(大規模法人の場合は必要)任意(大規模法人の場合は必要)

定款の定めによりますが、理事と監事は社員の中から選任することができます。

ただ、理事と監事は兼任することができません。

よって公益認定を見据えた一般社団法人の設立は、理事3名、監事1名の最低4名が必要となります。

一般財団法人の場合

一般財団法人とは、目的をもって集められた「財産の集まり」に対して、法人格(権利・義務の主体となる能力)を与えられたものです。

具体的な例としては美術品や遺産の集まりです。美術品や遺産など、そのもの自体を基に何かをしようとする組織です。

一般財団法人の設立登記には何が必要?

一般財団法人は設立時に一定の財産が必要となります。なぜならば、社団法人は人の集まりであるのに対し、財団法人は財産の集まりであるためです。

具体的には一般財団法人の場合、設立時に300万円以上の財産が必要となります。また、設立後においても純資産額(資産と負債の差額)が2期連続で300万円未満になった場合は解散手続をしなければなりません。

拠出される財産が確保できた後の手続きは、一般社団法人の場合と同じであるため一般社団法人の方で記載した内容をご参照下さい。

公益認定を見据えた一般財団法人の設立登記とは?

結論としては、下記の表のとおり一般財団法人と公益財団法人で必要な機関設計、人数は同じです。

理由としては財団法人は財産の集まりに法人格を与えられている以上、その財産の適正な運用を求められ、一般財団法人といえどもある程度のガバナンスが求められているためです。

そのため、一般財団法人を設立した後においては、特段公益認定のために機関設計を変更する必要はありません。

一般財団法人公益財団法人
評議員数3名以上必要3名以上必要
評議員会必要必要
理事数3名以上必要3名以上必要
理事会必要必要
監事1名以上必要1名以上必要
会計監査人任意(大規模法人の場合は必要)任意(大規模法人の場合は必要)

評議員、理事、監事、それぞれ兼任をすることはできません。よって、財団法人を設立する場合、評議員3名、理事3名、監事1名の最低7名は必要となります。

公益認定申請書の作成と提出

一般法人が主務官庁から公益認定を受けることで公益法人となることができます。ここでいう主務官庁とは、その業務を管轄する官庁のことで、東京都であったり内閣府であったりと、法人の業務によって異なります。

そこで、一般法人が公益認定を受けるために作成する書類が「移行認定申請書」という書類です。

この「移行認定申請書」の作成は大変な時間と労力を要する旨をこの記事冒頭で書きましたが、公益法人設立の過程で最もハードルが高い部分(逆に他の手続きは事務的・形式的な手続きになります)となります。

よって、以下で「移行認定申請書」の概要から詳細まで体験談を交えて解説します。

移行認定申請書とは

移行認定申請書とは、一般法人が公益法人に移行するにあたり、公益法人としてふさわしい法人である旨の確認を主務官庁から受けるための申請書です。公益法人informationというwebページにて必要書類のひな形をダウンロードして作成します。

書類の分量的には、当該申請書と添付書類とを合わせてプリントアウトしファイリングすると、厚みが10cm程度になることもあります。

書類作成の業務量的には、法人によりますが相当な時間と労力を要します。

申請書類の内容詳細は後述しますが、申請書類の中でも、法人の業務内容に関する部分と財務に関する部分が重要なポイントとなります。

よって、法人の業務内容に関する部分の記述は法人の公益法人への移行業務を担当される理事の方、財務に関する部分は公認会計士や税理士といった専門家が担当する場合が多いです。

申請書類は一旦作成して終わりではありません。作成した後は正式な提出の前に主務官庁の担当者にメール等で送り、確認を受け指摘があった部分につき適宜修正を加えることが必要です。

また、申請書の内容には含まれませんが、一旦申請書を主務官庁の担当者へ提出した後において、担当者からのヒアリングシートを受け取るのが通常です。

そのヒアリングシートにおいて、事業内容の補足説明や財務数値の説明等、細かに回答していくことも必要となります。

この回答が正しくできていないと移行認定申請書を正式に提出する段階まで進むことができないので、申請書以外でも書類対応を要すると想定し準備を進める事をおすすめします。

移行認定申請書の内容

移行認定申請書の中身を大きく分類すると下記のようになります。

  1. 法人の基本情報及び組織について
  2. 法人の事業について
  3. 法人の財務に関する公益認定の基準に係る書類について
  4. 添付書類

この4つに分類した書類の中でも、作成にあたり業務負担が大きいのが2と4の書類です。

添付書類の作成が大変というのも違和感を感じるかもしれませんが、そちらについては後述します。

ここからは、それぞれについて概要を解説します。

法人の基本情報及び組織について

こちらの書類は形式的な内容で、法人の組織形態や申請書類について確認が必要な場合の担当窓口などを記載します。

具体的には、法人の名称(一般法人の名称、公益認定を受けた後の名称、の両方)の他、住所や代表者氏名、申請担当者の氏名や連絡先、事業の概要を記載します。

また、組織の概要として役員や職員の人員等を記載します。

法人の事業について

こちらの書類は法人が行う予定の事業の詳細を記載します。

ポイントは事業の区分(公益事業、収益事業等のいずれか)と、公益事業の中でもどこまで細かく分類するかです。

公益事業については、その事業の公益性を当該書類上で明らかにする必要があります。

つまり法律の定める公益事業の基準を満たしていない事業については、公益事業として認められません。法律の定める公益事業については「認定法上の条文で定められた公益目的事業とは」で開設していますのでご参照ください。

法人の行う事業の詳細や内情については、コンサルタントでもなかなか把握することが難しいものです。よって、公益認定を担当される法人の役員の方において当該書類を作成することになる事例が多いです。

移行認定申請書の中でも、この事業内容に関する記述部分は、財務に関する部分と並んで重要な部分です。

なぜならば、法人によっては事業内容そのものが公益事業として認められるか否かによって今後の組織運営が大きく左右されることと、事業内容にの説明について文章記述の分量が多く、その書きぶりが問われる部分であるからです。

法人の財務に関する公益認定の基準に係る書類について

こちらの書類は、主に公益法人が満たすべき3つの財務基準を満たせるか否かを判断する書類と、その書類を作成するにあたり基礎となる計算を明らかにする書類なります。

公益法人が満たすべき3つの基準とは以下のものです。

  • 収支相償
  • 公益目的事業比率
  • 遊休財産の保有制限

当該3つの基準は、公益認定を受け公益法人となった後においても、毎年の決算で同様の計算を行い基準をクリアしているか確認する基準です。

そのため、公益認定時のみではなく、公益認定を受けた後においても常に関係する重要な論点であるため、詳細は別の記事で解説します。

計算自体は慣れてしまえば機械的に行える計算ではありますが、公益法人の財務計算に不慣れな状況の中で当該書類を作成するのは非常に労を要する部分です。

また、こちらの計算を行うための基礎となる計算が、実績からの計算のみではなく部分的に予算からの計算を行う必要があります。そこで、当該予算は後述の添付書類に含まれるのですが、予算を公益法人会計基準に基づいて作成することにも非常に労を要します。

なぜならば、当該申請書を提出する時点では一般法人であり、公益法人会計基準に基づいて予算・決算を行っていない状況の中で、公益法人会計基準に基づいた予算を作成する体制ができていないからです。

よって、当該書類を作成するにあたっては、数値の基礎となる添付書類と合わせて、公認会計士や税理士が予算・決算の内容を精査しながら作成することが多いです。

添付書類について

添付書類は申請書類の内容の基礎となる情報です。

具体的には、法人情報に関するものでは現状の定款、公益認定後の定款案、役員就任予定者の名簿等があり、事業内容に関するものとしては当該事業に関する書類で主務官庁の担当者から指定されたものとなります。

また、財務に関する書類は直近の決算書類をはじめ、公益法人となった初年度の予算書案などがあります。

前に記載しましたが、この予算書が公益法人会計基準に基づいた予算書である必要があります。

こちらの予算書の作成については、申請書類の財務に関する部分に関連している他、今後の年度における計算においても継続的に同様の計算を行うといった影響があるため、詳細まで検討して作成されることをおすすめします。

法人によっては添付書類が膨大な量になる法人もあります。添付書類の中に含まれる内容をもって申請書を作成するので、添付書類に含まれる書類をいかに早くそろえられるかが、移行認定申請書をスムーズに進める鍵となります。

移行認定申請書を作成・提出するスケジュール

移行認定申請書は一旦作成して主務官庁の担当者へ提出後、数回のやり取りを得て審議会へ進みます。

審議会へあがる前の段階においてどれだけ時間がかかるかは法人次第ですが、最初の担当者への申請書提出は公益法人へ移行する10か月ほど前を見込んでおくことをおすすめします。

なぜならば、4月1日から公益法人に移行登記して活動することを考えると、年明けには審議会(通常は月に1回のようです)を通過しているのが望ましく、審議会にあがる前の担当者とのやりとりで数か月は要することから逆算すると、10か月前には申請書の初版を主務官庁へ出している必要があるからです。

その上で、初版を10か月前に主務官庁へ出すにあたり、申請書類を作成する時間を考慮すると、さらにそこから6ヵ月前には作成に向けて法人内の調整をとったり情報を整理する必要があります。

以上により、公益法人として活動を始めたい年度の期首である4月1日から、最低でも1年4か月程度前から準備を開始することをおすすめします。

移行認定申請書の提出方法

移行認定申請書について主務官庁の担当者からOKがもらえましたら、公益法人informationというwebページにて必要書類をアップロードし、送信ボタンを押して申請完了です。

申請書類の中でも、ブラウザ上で入力して完了するものと、Excelに入力してアップロードする必要があるものがあります。

それ以後、もし申請書類について修正依頼があったり不備があった場合、公益法人information上で書類の修正や再提出を行います。

主務官庁の担当者からOKが出るまでは、通常であれば公益法人informationから送信をしないで担当者と直接メール等で申請書の修正やヒアリングのやりとりを行いますのでご注意下さい。

この公益法人information上での書類作成についても、公益認定後は毎年同様の書類作成を行うので慣れていくものですが、移行認定申請時は初めて作成するため、どの法人においても迷ったり戸惑う部分が多いようです。

特にブラウザ上で数値入力を行う書類などは、計算ボタンの押し忘れなどで不備が生じるケースが散見されますので、一旦書類を作成したら電卓を叩くなどして数値を確認することをおすすめします。

主務官庁から公益認定を受けて確認書を受け取る

公益認定を受けるために主務官庁へ提出した移行認定申請書が主務官庁の審議会を通過しましたら、申請を行った一般法人に対して確認書という書類が届きます。

この審議会において申請書の内容が審議され、公益法人として認めるにふさわしいか否かが検討されます。

実際のところの現場感としては、審議会において認められず公益認定が得られないというのは極々希なケースです。

なぜならば、審議会にあがる前に一般法人と主務官庁の担当者の間で、移行認定申請書の内容についてかなりのやり取りがあり、審議会を通過できない内容の申請書は担当者から審議会にあげてもらえないからです。

余談ですが、審議会を通過したら確認書が届く前に、主務官庁の担当者からお電話で通過した旨の連絡があるケースが多いようです。

時には厳しい担当者も、この時ばかりは喜びを分かち合える雰囲気がありました。

1年程度の時間をかけ様々な紆余曲折を経て、審議会を通過しようやく認定を得られた状況に届く書類なので、この確認書というもののありがたみは相当なものです。

そして届く確認書という書類は以下のようなものです。A4の紙一枚で、内容もあっさりしたものであるため拍子抜けしてしまう方もいらっしゃいました。

一般社団法人・一般財団法人から公益法人への移行登記

一般法人が公益法人となる最終段階、登記手続きです。主務官庁から受け取った確認書の他は、通常の法人が登記変更を行う際に必要な書類とほぼ同じで、司法書士に依頼する場合がほとんどです。

理由としては理事や監事の委任状、印鑑証明書、議事録等、必要な書類があり段取りに事務負担がかかるのと、なるべく早く登記を完了させるためです。

公益認定直後は、公益法人となって法人の名称が変わりますので挨拶状のほか、登記が完了したら速やかに税務署・銀行等へ名称変更の手続きしなければならない状況。

そのため、できるだけ事務負担は少なく、早く登記を完了して諸々の手続きを完了して落ち着きたいというのが実情です。

とはいえ登記自体は、公益認定を受けるまでに公益法人として問題ない内容の定款もできていますし、公益法人となった後の理事・監事も既に移行認定書類作成時に法人内部で調整が取れている状況なので、通常であれば滞りなく進み2週間ほどで登記が完了します。

登記が完了し、謄本で「公益法人」と記載されているのを確認したところで、やっと公益法人となれたことを実感できる状況になります。

これまで関与してきた案件を思い出すと、一般法人の理事長をはじめ理事の方々、公益認定業務を担当されていた方にとっては、喜びの瞬間でありますが、プレッシャーからの解放感・安心感の方が勝っているようでした。

それだけ公益認定を受けることの業務負担と、内外の関係者からのプレッシャーが大きいという事だと思います。

私の関与してきた公益法人でも、この時の慰労会が一番盛り上がった印象があります。

晴れて公益法人となってからは、公営法人としての組織運営に邁進するのみですが、どの法人にとっても公益法人特有の業務は初の体験であるため当分は試行錯誤の期間のようです。公益法人の組織運営ついては他の記事で解説しますのでそちらをご参照ください。

  • この記事を書いた人

大下航

公認会計士・税理士の大下航です。 監査法人・会計事務所勤務・税理士法人パートナーを経て独立。国内外の幅広い業種・法人形態の会計税務に対応。 公益法人の役員や顧問としては、ITを利用して業務の効率化を進めることが得意。 「一人でも多くの方に公益法人のことを理解して頂き、公益法人の活動を通して世の中が良くなっていけば~」という思いで記事を書いています。

-公益法人設立