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令和7年4月施行 財務規律の柔軟化・明確化をわかりやすく解説|公益法人会計

2026年4月2日

令和7年(2025年)4月1日、改正公益法人法が施行されました。今回の改正は、公益法人がより柔軟かつ自律的に経営できるよう、財務に関するルールが大きく見直されています。

公益法人の会計を支援する公認会計士・税理士として、私はこれまで多くの公益法人から「収支相償がクリアできず、年度末に慌てて支出を増やしている」「遊休財産の上限ギリギリで、いつも綱渡りの財務運営をしている」といったご相談を受けてきました。今回の改正はこうした現場の声を反映したものであり、実務に携わる立場としても非常に大きな変化だと感じています。

この記事では、改正のなかでも会計実務に直結する「財務規律の柔軟化・明確化」について、改正前後の比較を図表・実例を交えてわかりやすく解説します。

目次

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  • 財務規律の柔軟化・明確化とは
  • ①収支相償の廃止と「中期的収支均衡」への移行
    • 改正前:収支相償とは
    • 現場ではどんな困りごとがあったか
    • 改正後:5年間で均衡を取ればよくなった
    • 【具体例】数字で確認してみましょう
  • ②遊休財産規制の見直し「使途不特定財産規制」へ
    • 名称と計算方法が変わった
    • 【具体例】保有上限がどう変わるか
    • 保有制限の対象から除外されるものが増えた
  • ③公益充実資金の新設
    • 公益充実資金として積み立てられる要件
    • 【具体例】どんな場合に公益充実資金を使うか
    • 公益充実資金を使う際の注意点
  • ④公益目的事業継続予備財産の新設
  • 実務上、今すぐ確認すべきこと
    • よくある誤解と注意点
  • まとめ

財務規律の柔軟化・明確化とは

そもそも「財務規律」とは、公益法人が公益性を維持しながら適切に財産を管理・活用するために設けられたルールの総称です。公益認定を受けた法人は、一般の企業とは異なり、「稼ぎすぎてもいけない」「財産を溜め込みすぎてもいけない」という独特の制約のもとで運営を行ってきました。

しかし、平成20年の制度創設から約15年が経過し、現場では「ルールが厳しすぎて長期的な財務計画が立てられない」という声が多く上がっていました。今回の改正では、公益性の確保という本来の目的はそのままに、財務規律の内容を柔軟化・明確化することで、公益法人がより実態に即した経営判断を行えるよう見直しが行われました。

今回の改正では、公益法人の財務規律に関して以下の4つが見直されました。

改正ポイント改正前改正後
①収支均衡ルール収支相償(単年度ごと)中期的収支均衡(5年単位)
②遊休財産規制当年度の事業費1年分が上限過去5年の平均事業費が上限
③特定資金制度特定費用準備資金・資産取得資金(個別)公益充実資金(統合・柔軟化)
④災害対応予備財産保有制限の対象使途不特定財産の保有制限から除外

それぞれ順番にみていきましょう。

①収支相償の廃止と「中期的収支均衡」への移行

改正前:収支相償とは

改正前の公益法人には「収支相償(しゅうしそうしょう)」というルールがありました。これは、毎事業年度、公益目的事業の収入が費用を超えてはいけないというルールです。

【改正前】収支相償のイメージ
収入
(会費・補助金・寄付等)
=費用
(人件費・活動費等)
毎年度、この等式を満たす必要があった

このルールの問題点は、単年度での黒字が出ると「収入が多すぎる」と判断されてしまう点です。翌年度に備えて積立てたいケースや、大型事業の準備のために資金を蓄えたいケースでも対応が難しく、内閣府の調査では約60%の公益法人が「収支相償の対応に苦労している」と回答していました。

現場ではどんな困りごとがあったか

私が実際に支援してきた公益法人でも、以下のような状況が頻繁に起きていました。

よくあった困りごとその背景
年度末に「黒字になりそうだ」と慌てて支出を増やす単年度で収入が費用を超えると収支相償違反になるため
補助金が一時的に多く入った年に対応できないその年だけ収入が増えても、単年度で均衡させなければならないため
3年後の施設改修に向けて積立ができない目的が決まっていない積立は遊休財産に該当するリスクがあるため
長期的な事業計画が立てられない毎年度ごとに収支均衡を求められるため、複数年の収支見通しを立てにくいため

特に印象に残っているのは、ある公益財団法人のケースです。3年後に開催を予定している大型シンポジウムに向けて資金を積み立てたいのに、「今年の収入が費用を超えてしまいそうなので、今年度中に何かに使わなければならない」という相談でした。本来の目的とは逆に、使いたくない資金を無理に使わなければならないという本末転倒な状況が生じていたのです。

改正後:5年間で均衡を取ればよくなった

改正後は「中期的収支均衡」という考え方に変わりました。単年度で黒字でも、過去4年分の赤字と通算して均衡していれば問題なしというルールです。

【改正後】中期的収支均衡のイメージ(5年通算)
1年目
-100万円
(赤字)
2年目
-50万円
(赤字)
3年目
+30万円
(黒字)
4年目
+80万円
(黒字)
5年目
+40万円
(黒字)
通算
+0万円

✔ OK

また、通算後も黒字が残る場合には、以下のいずれかで解消する必要があります。

  • 公益目的保有財産(固定資産等)の取得に充てる
  • 翌年度以降の事業規模を拡大する

【具体例】数字で確認してみましょう

ある公益社団法人A(年間事業費:約1,000万円規模)を例に考えてみます。

年度収入費用単年度収支改正前の判定改正後の判定
令和3年度900万円1,000万円▲100万円(赤字)✔ OK✔ OK
令和4年度950万円1,000万円▲50万円(赤字)✔ OK✔ OK
令和5年度1,030万円1,000万円+30万円(黒字)✗ 違反✔ OK(赤字と通算)
令和6年度1,080万円1,000万円+80万円(黒字)✗ 違反✔ OK(赤字と通算)
令和7年度1,040万円1,000万円+40万円(黒字)✗ 違反✔ OK(5年通算 ±0)

この例では、改正前であれば令和5〜7年度が「収支相償違反」となり、行政庁への説明や是正が求められていました。改正後は5年間の累計が±0であればよいため、3年連続で黒字でも問題なしとなります。

項目改正前(収支相償)改正後(中期的収支均衡)
判定単位毎事業年度ごと5年間の累計
赤字の取り扱い翌年度に繰越して解消過去4年の黒字と通算可能
判定の対象公益目的事業ごと公益目的事業全体
黒字が残った場合問題あり(要是正)資産取得や事業拡大で解消

専門家からのひとこと:この改正は実務上、非常に大きな意味を持ちます。従来は「年度末に黒字が見えてきたら、何か支出を作らなければならない」という不健全な行動を誘発していました。改正後は5年スパンで収支管理ができるため、より本来の意味での事業計画・予算管理が可能になります。ただし注意点として、5年通算でも黒字が残る場合は「資産取得」か「事業拡大」での解消が必要です。この処理を誤ると別の問題につながりますので、早期に会計専門家に相談することをお勧めします。

②遊休財産規制の見直し「使途不特定財産規制」へ

名称と計算方法が変わった

改正前の「遊休財産規制」は、使途が決まっていない財産の保有上限を定めるルールです。改正後は「使途不特定財産規制」と名称が変わり、保有上限の計算方法も見直されました。

保有上限の計算方法の比較
改正前→改正後
当年度の公益目的事業費
1年分まで
→過去5年間の公益目的事業費の
平均額まで
年度ごとに変動するため
見通しが立てにくい
安定した保有上限で
財務計画が立てやすくなった

【具体例】保有上限がどう変わるか

ある公益財団法人B(事業規模が年々成長している法人)の例で比較してみます。

年度当年度の事業費
令和3年度800万円
令和4年度900万円
令和5年度1,000万円
令和6年度1,100万円
令和7年度(当年度)1,200万円
令和7年度末時点の保有上限の比較
改正前(当年度事業費)
1,200万円まで
改正後(過去5年平均)
(800+900+1,000+1,100+1,200)÷5=1,000万円まで
※この例では事業費が増加傾向のため改正後の方が上限は下がるケースもある(逆に事業費が減少傾向の法人では上限が上がる)

この例のように、事業費が増加傾向にある法人では改正後に保有上限が下がる場合もあります。一方で事業費が減少した年がある法人では、5年平均の方が高くなり保有余裕が生まれることが多いです。いずれにせよ、年度ごとに大きく変動しないため、財務計画の見通しが立てやすくなる点が大きなメリットです。

保有制限の対象から除外されるものが増えた

改正後は、新たに「公益目的事業継続予備財産」が保有制限の対象外となりました。

財産の種類保有制限の対象
特定の使途が決まっている財産(公益充実資金など)対象外(除外)
公益目的保有財産(公益目的事業で使う固定資産等)対象外(除外)
公益目的事業継続予備財産(★改正で新設)対象外(除外)※公表要件あり
上記以外の財産(使途不特定財産)対象(上限あり)

「公益目的事業継続予備財産」とは、災害など予見しがたい事由が生じた場合でも、公益目的事業を継続するために必要な財産のことです。積立の理由を公表することが条件となります。

たとえば、「地震等の大規模災害が発生した際に、被災した会員への支援事業を継続できるよう○○万円を確保する」といった具体的な理由を示せば、保有上限の計算から除外できます。

専門家からのひとこと:遊休財産規制は、実務の現場では「年度末に遊休財産が上限を超えそうになって慌てる」という話をよく聞いていました。改正後は5年平均という安定した基準になったことで、この種の"年度末の駆け込み支出"が減ることが期待されます。ただし、法人によっては改正後に上限が下がるケースもあります。早めに自法人のシミュレーションをしておくことが重要です。

③公益充実資金の新設

従来の「特定費用準備資金」と「資産取得資金」が統合され、「公益充実資金」という新しい制度が創設されました。

資金制度の変化
改正前
特定費用準備資金
(事業費の積立)
→改正後
公益充実資金
(統合・一元管理)

✔ 目的間の変更が可能
✔ 複数事業を一括管理
✔ 費用積立⇔資産取得の変更も可能
改正前
資産取得資金
(設備取得の積立)

公益充実資金として積み立てられる要件

公益充実資金として積み立てるには、以下の条件を満たす必要があります。

  1. 将来の特定の公益目的事業費(人件費・活動費等)を賄うための資金であること
  2. または、将来の特定の公益目的保有財産の取得・改良のための資金であること
  3. 目的・時期・必要額について、一定程度の具体的な計画があること

注意点として、「将来何かのために」という漠然とした積立は認められません。具体的な計画に基づく積立である必要があります。また、内閣府への情報開示が義務付けられています。

【具体例】どんな場合に公益充実資金を使うか

以下のような場面で活用できます。

活用シーン積立の理由(例)改正前との違い
3年後に大型国際シンポジウムを開催する予定「令和10年度開催予定の〇〇シンポジウムの開催費用として500万円を積み立てる」改正前は特定費用準備資金として個別に設定が必要だった
5年後に事務所を建て替える「令和12年度の事務所改築費用として2,000万円を積み立てる」改正前は資産取得資金として別途手続きが必要だった
当初は施設改修費だったが、事業費に転用したくなった目的変更の届出をすれば、公益充実資金の範囲内で転用可能改正前は資産取得資金→特定費用準備資金への変更が原則できなかった

公益充実資金を使う際の注意点

公益充実資金には、柔軟性の反面、いくつかの厳格なルールもあります。

  • 情報開示が必須:積立の目的・金額・時期を内閣府に届け出るとともに、一般に公表しなければなりません。
  • 取り崩しルールの遵守:積み立てた資金は、届け出た目的以外には使えません。目的を変更する場合は事前に届け出が必要です。
  • 無断変更は強制取り崩し:正当な理由なく積立を中断したり、目的外に使用した場合は、強制的に取り崩す義務が生じます。

専門家からのひとこと:公益充実資金は、公益法人の財務管理に大きな自由度をもたらす制度ですが、「なんでも積み立ててよい」という制度ではありません。私が気をつけていただきたいのは、計画の具体性です。「将来の活動のため」という程度では認められず、「いつ・何に・いくら使うか」が一定程度見えていることが必要です。また、届け出内容と実際の使途がずれると問題になりますので、計画が変わりそうな場合は早めに変更届を出すことを強くお勧めします。

④公益目的事業継続予備財産の新設

令和6年1月の能登半島地震のように、突然の大規模災害によって公益法人の事業継続が困難になるケースが現実に起きています。こうした事態を踏まえ、「不測の事態に備えた財産」を保有制限から除外する仕組みが新設されました。

項目内容
名称公益目的事業継続予備財産
対象となる事由災害、感染症のまん延など予見しがたい事由
保有要件その財産が公益目的事業を継続するために「必要」であること
情報開示保有の理由・金額を公表することが義務
効果使途不特定財産の保有上限の計算から除外できる

たとえば、「大規模地震発生時に事務所が使用不能となった場合でも、被災地支援事業を6か月継続できるよう、運転資金として○○万円を確保する」といった具体的な保有理由を公表することで、この制度を活用できます。

専門家からのひとこと:この制度は非常に実務的なニーズに応えたものだと評価しています。ただし「不測の事態への備え」は誰もが思い浮かびやすいため、保有理由が抽象的にならないよう注意が必要です。「地震のため」だけでは不十分で、「どのような被害を想定して、何の事業を継続するために、いくら必要か」という具体性が求められます。この点の説明責任を果たすことが、公益法人の信頼性向上にもつながります。

実務上、今すぐ確認すべきこと

令和7年4月以降、公益法人の担当者・顧問会計士として確認しておくべき実務上のポイントを整理します。

確認事項内容優先度
過去4年分の収支実績の整理中期的収支均衡の判定のために、過去4年度分の公益目的事業の収支を把握しておく★★★
過去5年分の事業費の確認使途不特定財産の保有上限が変わるため、5年平均の事業費を計算しておく★★★
特定費用準備資金・資産取得資金の見直し既存の積立資金を公益充実資金へ移行できるか検討する★★☆
継続予備財産の保有検討自法人にとって不測の事態に備えるべき財産はあるか確認する★★☆
情報開示内容の整備公益充実資金・継続予備財産を保有する場合は、開示資料を整える★★★

よくある誤解と注意点

改正の内容がまだ広まりきっていない中で、現場でよく見られる誤解をまとめます。

よくある誤解正しい理解
「黒字でもよくなったから、収支管理は適当でよい」5年通算でも黒字が残る場合は解消義務あり。収支管理の重要性は変わらない
「遊休財産の上限が上がった」法人の状況による。事業費増加傾向の法人では逆に下がる可能性もある
「公益充実資金はとりあえず積んでおける」具体的な計画のない積立は認められない。漠然とした積立は対象外
「改正は令和7年4月から、うちはまだ関係ない」令和7年4月以降に開始する事業年度から適用。3月決算なら令和8年3月期から。早めの準備が必要

まとめ

今回の「財務規律の柔軟化・明確化」は、従来の厳格すぎたルールを見直し、公益法人が長期的な視野で安定した経営を行えるように設計されています。

改正ポイント実務への影響
①中期的収支均衡(5年)単年度の黒字を恐れず、中長期の資金計画が立てやすくなった
②使途不特定財産規制(5年平均)保有上限が安定し、財務計画の見通しが立てやすくなった
③公益充実資金複数の積立資金を一元管理でき、目的変更も柔軟に対応できる
④公益目的事業継続予備財産災害対応用の予備財産を確保しやすくなった

一方で、情報開示義務や取り崩しルールの確立など、透明性・説明責任の向上も求められています。「柔軟化された」という言葉だけが先行して、開示義務の部分を見落としてしまうと、後々問題になるケースも出てくると思います。

改正内容への対応は、自法人の過去数年分の財務データの整理から始まります。まずは現状の数字を把握し、新しいルールのもとで自法人がどのような財務状況になるかをシミュレーションしてみることをお勧めします。不明な点があれば、公益法人に精通した公認会計士・税理士にご相談ください。

公益充実資金の具体的な積立手続き、活動計算書への移行、3区分経理の実務については、別の記事で詳しく解説する予定です。

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大下航

公認会計士・税理士の大下航です。 監査法人・会計事務所勤務・税理士法人パートナーを経て独立。国内外の幅広い業種・法人形態の会計税務に対応。 公益法人の役員や顧問としては、ITを利用して業務の効率化を進めることが得意。 「一人でも多くの方に公益法人のことを理解して頂き、公益法人の活動を通して世の中が良くなっていけば~」という思いで記事を書いています。

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